鳩小屋

落書き帳

為替介入発動

www3.nhk.or.jp

政府と日銀が為替介入に踏み切ったようです。
この為替介入は国内のインフレ圧力要因の一つとなっている円安を「ドルを売り円を買う」ことによって押さえつける政策になります。より具体的には、国が保有する外貨資産を売却して円と交換(購入)する流れになります。

普段買っている食料品の値上がりに苦しんでいる身としては期待感もありますが、この為替介入にはいくつか注意点があります。

為替介入の限界

まず、実施できる為替介入には上限があるということです。為替介入で売却できる外貨資産は、イコール国が保有する(貯め込んだ)外貨資産の額面になります。
日本の外貨準備は1兆3000億ドル(185兆円)ですので、単純にこれが円買いの上限になります。加えて、国が保有する外貨資産の8割(1兆ドル)は外貨建て証券で、内訳の大半が米国債とみられています。つまり、政府が為替介入に踏み切った場合、米国債を売って円を買うという流れが中心になります。すると、米国債の価格が下落する(大量売却による需要低下)一方で米国債金利は上昇します。これは結果的に、日米金利差が拡大すること(日本は低金利のまま、米国金利が上昇する)を意味します。投資家は低金利から高金利に資産を映す傾向がありますから「円売りドル買いを始める」ことになります。この「円売りドル買い」は現在の円安の根本原因ですので、日本の為替介入が本末転倒の結果を招いた挙句、国の外貨準備を浪費するだけの結果に終わるという危うさも内包しています。

という見方もあるのですが、米国FRBのリバースレポファシリティーという仕組みを使えば米国債を担保としてドルを借り入れることができ、米国債の売却を回避(あとでドル払いで返せば担保の米国債が返却されます)できるため、上記のようなリスクは以前よりは低下しているとの情報もあります。

www.bloomberg.co.jp

外貨準備の喪失

為替介入で売却する外貨準備は、何の意味もなくため込んでいるわけでなく、通貨価値が暴落しても国際決済を行うための手段になります。
もう少しかみ砕くと、深刻な通貨安が進んだ状態における外貨建ての支払いが大きな財政負担となり困難となった際に、外貨資産による支払いは自国通貨安による影響を受けずに確実な決済ができる国家経済の防波堤として機能します。そのため、外貨準備が存在しない状態で通貨危機が発生した際にはデフォルト(国家破綻)のリスクが高まります。

最近の外貨準備の話題としては、ロシアへの経済制裁や韓国のウォン安が挙げられます。前者はウクライナ侵攻に伴ってドル決済から締め出されたことで外貨獲得の手段を失っている状況になります。結果的にロシア経済はドル建て支払いによる外貨準備の喪失や輸入制約に苦しんでいる状況になります。後者は、ウクライナ侵攻に伴う通貨安に対応するため、日本よりも先行して為替介入に踏み切った結果、外貨準備を強烈な側で喪失しているにも関わらずウォン安を止められていない状況になります。特に、空売りによってウォン安を誘導して、為替介入で上昇した差額分を利益とするため、国家予算並みの資金を持つ投資ファンドに標的とされ始めている点も気になるところです。

米国との外交摩擦

為替介入は国際的にタブーな手段とされているところも注意点といえます。これは、為替が輸出入の損益をはじめとして国家間の経済バランスに大きな影響力を持っていることが理由となります。例えば、輸出が盛んな国では自国通貨安を誘導することで、容易に貿易黒字を拡大することが可能です。一方、他国の為替介入によって割を食う国も発生してきます。すると、国家間で自国で有利な為替操作を競い合う競争が発生します。また、為替操作の能力は国家の経済規模に比例するため、このような競争が起これば、経済規模の小さい国家が追い込まれたり、お互いに外貨準備を消耗しあうような不毛な争いに発展します。このような理由で米国は為替介入を忌避する傾向がありますので、米国の同意がない日本政府による独断であった際には、外交摩擦に発展するリスクもあります。とりわけ、ドル安を誘導するということは米国が最も神経質になっている自国インフレに悪影響を及ぼす(輸入品の価格高騰など)懸念から反発される可能性もあります。
こちらについては、米財務省が「最近高まっている円のボラティリティー(変動性)の抑制を狙った行動だとしており、われわれはそれを理解した」と発表していて、それほど気にする必要はないかもしれません。

news.yahoo.co.jp

国内証券への影響

最後は、物価ではなく金融市場への影響ですので、資産運用していない方には関係ない内容になります。

こちらは日経平均の円建てとドル建てのチャートになります。一目瞭然ですが、ドル建て価格が下落しているのに対して、円建て価格はあまり下落していないことが分かります。
これは、ドル建て価格が急激な円安によって価値が目減りしていることを意味しています。別の見方をすれば、国外投資家からは日経平均が割安に見え、比較的資金が流入している状態といえます。
ここで、為替介入によって円高が加速した場合、ドル建て価格は上昇しますが海外投資家による売りが加速することで、円建て価格は下落することが予想されます。

このように株式や国債も為替と強い相関関係があり片方が変化すればもう片方も変化するといった影響があります。
実際にはここまで単純ではないと思いますが、こういった影響も予測できるようになると何気ないニュースの一面でしかない金融情報も理解に深みが出てくる気がします。

おわり

ここまで為替介入に関する妄想を垂れ流してきましたが、この政策自体が吉と出るか凶と出るかまではまったく分かりません。
ただ、家計や資産運用に直結していることは確かなので注視していきます。