鳩小屋

落書き帳

ウクライナ戦況 Spearhead Operation

静かに見守っていたウクライナ戦況に大きな動きがありました。
機甲部隊の電撃作戦でロシア軍補給路の生命線ともいえる町を奪還し、ロシア軍を国外まで追い出すことに成功したようです。
進撃速度もさることながら情報統制や陽動で予兆を掴ませずに電撃戦を実現したのは見事というほかありません。

全体マップ


https://www.asahi.com/articles/ASQ9B031SQ99UHBI07B.html

こちらは全体マップですが、クピャンスクとイジュームという町が要所になります。

イジュームは首都キエフの制圧に失敗したロシア軍がルハンスク州やドネツク州を広範囲に包囲するための攻撃軸として重要な拠点となっていました。
ただし、ウクライナ軍の防御でこの包囲は叶わず、より狭い包囲としてセベロドネツクやリシチャンスクをめぐる戦いが7月頃に行われました。
現在、これらの町は制圧されスラビャンスクやバクムトが最前線となっていますが、激戦が続きながらも戦線は停滞しています。
最近のロシア軍は1週間に1kmしか進軍できていないとも言われています。

今回の主戦場となった北方のハルキウ方面も似たような状況が続いていて、反攻の予兆は全くありませんでした。

ヘルソン方面


https://militaryland.net/

ハルキウ方面の反攻前に注目されていたのは、南西部のヘルソン方面です。

ウクライナ軍は、NATO加盟国から提供されたロケット砲システムを使いこなして、兵站(弾薬庫や橋)を攻撃することでロシア軍を混乱させていました。
ハルキウ方面にはドニプロ川という大きな川が流れているため、渡河するためには3つの橋が重要になります。(図の×印がついたところです)
ウクライナ軍は、これらの橋を破壊してドニプロ川以西のロシア軍を孤立させて反攻作戦を開始しています。

ロシア側もこれに応戦して、東部から部隊を引き抜いてこちらに回しましたが、十分な物資が届けられない状況でうまく対応できていないようです。
さらに、対レーダーミサイルでロシア側の防空システムを破壊することでウクライナ側が航空優勢も確保しはじめています。

近代戦では空軍が陸軍に打撃を与えてから陸軍の攻勢をかけるのがセオリーになります。
一方、ウクライナ戦では、双方が相手の防空兵器を恐れて十分に空軍が運用できない状況が続いていました。
そのため、各戦線では、WW1のような塹壕戦や砲撃戦が繰り返されています。

対レーダーミサイルはこの戦況を打開するゲームチェンジャーの一つになっているようです。

ウクライナ軍の作戦としてはドニプロ川以西のロシアを駆逐するまでが目標と思われます。
理由は橋を破壊しているためにその先には進めないものの、川を挟むことで防御が容易になり、より少ない戦力で戦線を維持することが可能になるためです。

ドニプロ川まで戦線を押し返した段階で他戦線に戦力を集中するのかと考えていましたが、ハルキウ方面の反攻は全くの予想外でした。

ハルキウ方面

今回の「Spearhead Operation」と呼ばれるハルキウ反攻作戦では、今まで温存した大規模な機甲部隊を投入することでロシアの防衛線を食い破りクピャンスクという町を中心として、ロシア軍の兵站網を崩壊させました。この町は前述のロシア本国からイジュームやセベロドネツクに物資を輸送する重要拠点であり、ここを失うと補給先地域の部隊は孤立します。さらに、本来想定していなかった方向から陣地が攻撃・包囲される脅威にもさらされ、大混乱に陥ったようです。
以下は反攻の流れです。

今回突破したロシア軍防衛線は、南部方面に部隊を引き抜かれていたため、スカスカな状態でした。
ウクライナ軍としても活発に偵察を行いこの状況を掴んでいたようです。
さらにロシア側は攻撃されることを想定した防御態勢が準備されておらず、ほとんど応戦できないという悲惨な結果になりました。
武器弾薬もほったらかしのまま撤退しているため、鹵獲装備も山のようにあるとのことです。

ウクライナ側の兵站もあるのでどこかで落ち着くでしょうが、戦況が好転したのは間違いなさそうです。
引き続き今後の行方を見守りたいと思います。